みなさん、日々授業をしているなかで

「この子たちは、本当に学力がついているだろうか?」
そう感じることはありませんか?
教科書の内容はしっかり覚えている。計算問題も解ける。
でも、いざ目の前に現れた「ちょっと複雑そうな問題」や「複合的な関わりをする問題」には手が止まってしまう・・・そんな体験をしている先生は多いのではないでしょうか。
そんな経験がある先生方にこそ知っていただきたいのが、「パフォーマンス課題」です。
パフォーマンス課題はペーパーテストのような単なる知識の確認ではなく、子どもたちが「何のために学ぶのか」「学んだ知識はどのように使うのか」を実感し体験できる、「学びの出口」になる課題になります。
本記事では、「パフォーマンス課題とは何か?」という基本から、小学校での具体例、そして評価に使えるルーブリックの作り方まで、解説していきます。




パフォーマンス課題とは?知識を「活用」する問い
「パフォーマンス課題」とは、児童がこれまでに学習した事実的知識や個別的スキルをもとに、複雑な状況や現実的な課題に応用して答えを導くタイプの課題です。
テストのように正解が一つに決まる問題ではなく、オープンクエスチョンの形式が多く、考えるプロセスそのものを評価します。
アメリカの教育学者ウィギンズらによる「知の構造」に基づくと、パフォーマンス課題は、
- 転移可能な概念(複数の場面で活用できる考え方)
- 複雑なプロセス(課題解決、判断、提案など)
にあたる学びを重視しており、原理的な理解や一般化へと子どもの学びを深める契機となります。





このことを、わかりやすく料理に例えてみましょう。
「カレーを作る」という課題があるとき
料理で言う事実的知識や個別的スキルは下記のようなものになります。
事実的知識 | 個別的スキル |
---|---|
玉ねぎは甘みとコクを出す、にんじんは甘さと食感を加える、スパイスが風味を決めるなど。 2.調理器具の名称と使い方の知識 包丁・鍋・おたまなど、機材のそれぞれの使い道と安全な使い方など。 3.火加減や加熱時間の基本的な知識 はじめに炒めるときは中火、煮込むときは弱火、肉に火を通すためには○分以上など。 | 1.カレーの基本的な材料とその役割にんじんやじゃがいもを同じ大きさに切る、手を切らないように注意する。 2.食材を炒める・煮るなどの調理技術 玉ねぎを焦がさず炒める、煮込むタイミングを見計らって火加減を調整する。 3.手順に沿って料理を完成させる力 具材を炒める→水を加えて煮込む→ルウを入れる→味を調える、という流れを正しく実行できる。 | 1.材料を安全に切る技術(包丁スキル)
上記のことを複合して、組み合わせることで、カレーを作るという課題をクリアできることができるようになります。
また、それだけでなく「自分で考えてバランスの良いカレーを作る」ためには、それらを組み合わせて活用する必要があります。
例えば:
- 冷蔵庫にある材料からレシピを考える(判断力)
- 限られた時間や器具で段取りよく作る(計画性)
- 味の好みに応じて工夫を加える(創造性)
こうした「知識・技能の統合的な活用が求められる課題」が、パフォーマンス課題といえます。
パフォーマンス課題のポイント
- 知識やスキルを複合して取り組む必要がある
- 現実的な課題に応用することができる
- 考えるプロセスそのものを評価する
なぜ、パフォーマンス課題が必要なのか?
学習指導要領が求める「思考力・判断力・表現力」や「主体的な学び」を実現するためには、「知識の定着」だけでは不十分であり、「知識を複合して活用する力」を身につけることが必要になります。
パフォーマンス課題を行うことで、下記のような効果を得ることができると感じられます。
- 授業で得た知識の実践的な使い方を学ぶ
- 問題集の問題を解くわけではなく、現実の課題に応じて考える
- 他者と協働しながら思考を深める
- 理由や根拠を明確に伝える力を育む
つまり、「学びの先」を意識した課題になります。
小学校におけるパフォーマンス課題の例(算数6年生 拡大図・縮図)
それでは実際に私が取り組ませようと考えている、パフォーマンス課題の例をあげます。
小学校算数科6年生「拡大図・縮図」の単元における問題例です。①②は基本的な知識やスキルの確認、③④がパフォーマンス課題にあたります。
【事実・スキル確認の問題】
① コピー機で拡大、縮小した図形が何倍に縮小・拡大されているかを定規で測り、計算で求める。
② 実際のグラウンドや公園の地図、などを使い、縮尺を使った長さの計算を行う。
①では、拡大図・縮図の定義を正しく理解し、比例関係の感覚を押さえることを目的としています。「これは何倍になっているのか?」と問うことで、形は変わらず大きさだけ変化しているというポイントを抑えることができます。
②では、①に比べて日常的に使う「地図」をもとにした、パフォーマンス課題の目的である現実的な課題に近づけたものになっています。縮尺から実際の長さを求める計算、逆に実寸から図面を引く際の縮小作業など、具体的な数的操作スキルを定着させつつ、「計算が使える」という実感を持たせるためのステップです。
【パフォーマンス課題の例】
③あなたは市の“まちづくりプランナー”に任命されました。今回まちづくりプランナーの仕事として、「公園の設計」を任されました。限られた土地の中で、公園に来た人が過ごしやすいように「遊具エリア」「芝生」「花壇」などをどう配置するか、1/200の縮尺で設計図を描き、広さや資材の量なども計算して試算してみましょう。
④③で作った設計案についてクラスでプレゼンテーションを行う。他者の案のに触れ、フィードバックを元に改善する。
③では設計図を描くという目的を果たすために、「拡大図・縮図」の「知識」と「作図のスキル」の両方を使うことになります。また、設計には空間認識・比・面積の理解が求められ、数学的資質を複合的に使う機会となります。数学的な知識技能だけでなく、「公園に来た人が過ごしやすいように」という観点を加えることで、数学的な考えだけでなく、自分のこれまでの体験や知識からどこに何を設置するとよりよいものにできるのかという試行錯誤を行うこともできます。
最後の課題である④では、実際に作った設計案をみんなに説明するために言語化することで、自分の考えを表現・可視化する力を育てることができます。また、他者の視点に触れることで、自分にはない価値観に触れ、それを自分の中に取り入れるということもできるようになります。
パフォーマンス課題の例(算数6年生 拡大図・縮図)の評価ルーブリック
課題を出し、取り組ませるだけでは不十分です。また、パフォーマンス課題は前述した通り「正解が一つに決まる問題ではない、オープンクエスチョンの形式のものが多いです。そこで活躍するのが「ルーブリック評価」です。ルーブリックとは、学習活動に対してどのような力が、どの程度身についているかを、複数の観点と段階的な基準で評価する方法です。実際に上記のパフォーマンス課題を評価するためのルーブリックは下記になります。
観点 | 3(十分できている) | 2(おおむねできている) | 1(一部できている) | 0(ほとんどできていない) |
① 縮図の正確さ | 縮尺に基づいて、配置や大きさが正確に描かれており、縮図としての完成度が高い | 概ね正確に縮図が描かれているが、一部に誤差や不整合がある | 縮図の概念はあるが、比率が不正確または図が乱れている | 縮図になっておらず、スケールの理解ができていない |
② 空間の配置・構想力 | エリアごとの配置が合理的で、利用者目線の工夫もみられる | 配置は成立しており、全体としてまとまりがある | 配置に偏りや不自然さがあるが、意図は読み取れる | 無計画に配置されており、構想として成立していない |
③ 面積や資材の試算 | 面積計算が正確で、文字式や割合を適切に使って資材などを論理的に求めている | 面積や試算に一部誤りがあるが、考え方や手順に筋が通っている | 計算に多数の誤りがあるが、試算しようとする姿勢が見られる | 計算や数量に全く根拠がなく、数的処理がされていない |
④ 提案の妥当性・表現力 | 設計と理由づけが明確で、伝わりやすいプレゼンや資料が作られている | 設計意図が伝わるように整理されている | 提案内容がやや分かりにくいが、意図は読み取れる | 提案としての体裁をなしておらず、意図が伝わらない |
パフォーマンス課題をつくる3つのポイント
パフォーマンス課題を作るためには、以下の3ステップを意識して作っていくことが大切になると思います。
① 知識・スキルの土台を用意する
パフォーマンス課題の前に、必要な知識(①②のような基本問題)やスキル(調べ方・まとめ方など)を確実に学んでおく必要があります。
② 実際に起こり得るリアルな設定にする
子どもたちが自分ごととして考えられるような、生活や社会との接点がある問いにします。
③ ルーブリックで評価基準を共有する
オープンな問いに対しては、ルーブリックを用意し、「何を見て評価するか」をあらかじめ明確に定めておくことが大切です。
みなさんもパフォーマンス課題を作ってみましょう!
小学校での学びが単なる“知識の貯金”で終わらないために、知識を活用し、意味づけ、社会や他者と関わる課題=パフォーマンス課題に取り組んで見ましょう!
- 子どもが考えたくなる問い
- 話したくなるテーマ
- 多様な見方・考え方が出てくる設定
これらを意識して、授業づくりに取り組んでいきましょう。
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